生物多様性

生物多様性について

生物多様性をどのように測るのか

生物多様性は「生態系の多様性」「種の多様性」「遺伝子の多様性」の3つの階層に分けられますが、ここでは種の多様性の程度を測る3つの指標(尺度)を紹介します。
α(アルファ)多様性は個々の地域における種数です。外来種などが導入された場合,地域によっては種数が増加することがありますから、α多様性が外来種によって高くなることがあります。
しかし,β(ベータ)多様性は,地域間の違いなので、外来種が広がるとβ多様性は小さくなります。そして、γ(ガンマ)多様性は全体の種数なので、外来種によってどこかの地域の固有種が絶滅すると低下します。
地球全体の生物多様性を守ることを考えれば、開発や乱獲,地球温暖化による絶滅を防ぐだけでなく、外来種による均質化(β,γ多様性の減少)を防ぐことも重要です。

詳しく調べるためのキーワード

●種の多様性
●外来種問題

出典・リンク

●日本生態学会(編)生態学入門 第二版.東京化学同人
●Wikipedia「生物多様性」

生態系サービス

生物多様性を、なぜ守らなければならないのか? それは、私たちの豊かな生活を守るためです。私たちの暮らしは多種多様な生物の存在によって支えられており、人工的に見えるカップ麺でさえ、その原材料はさまざまな生きものです。魚介類は自然の海から直接採集しているので海の生態系が維持されなければいけませんし、小麦は温帯の環境、さまざまな香辛料は熱帯の環境が必要です。
食糧以外にも自然からの恵みはたくさん受けていますし、そうした物質的なもの以外にも、観賞用の熱帯魚や、四季の風景など、多くの人の心にも重要なものがあります。
自分たちがどれほど多くの生態系サービス、すなわち「生物多様性のめぐみ」を利用しているか、調べてみると良いでしょう。

詳しく調べるためのキーワード

●生物文化多様性 
●資源管理

出典・リンク

●自然の恵みの価値計る

生態系サービスの具体例

生態系サービスといっても、農業や畜産業などは「人工的」に作物や家畜を育てているので、生態系に依存していないように思うかもしれません。
しかし、家畜の飼料には自然界から採取したものも使われていますし、農作物も周辺に生息する昆虫によって実るものも多くあります。そうした例として、ソバの収穫量が農地周辺の昆虫に依存していることを示した研究があります。
論文の内容を紹介した「プレスリリース」と、実際の研究論文を紹介しておきます。

詳しく調べるためのキーワード

●エコツーリズム 
●地域資源

出典・リンク

●森林総合研究所プレスリリース「森林の生物多様性がソバの実りを豊かにする -花粉を媒介する昆虫の多様性が結実率を高める- 」
●滝 久智ほか(2010) Effects of landscape metrics on Apis and non-Apis pollinators and seed set in common buckwheat. Basic and Applied Ecology, 11: 594-602.

生態系サービスと経済

生態系サービスは食糧生産だけでなく、私たちが暮らすための生活環境の維持にも必要です。森林やサンゴ礁は二酸化炭素を吸収し、大気組成の維持によって気候を安定させています。湿地や河川は、生活排水などの汚染を浄化して、食料資源となる魚貝類の生息環境の維持や、人間の利用できる水資源を作り出します。そうした環境(生態系)が失われた場合、その分を人工的な施設で代替させるとどのくらいお金がかかるのでしょうか? それぞれの環境の面積当たりの金額を計算し、地球全体で、生態系がどのくらいの費用を負担してくれているのかを試算した研究では、2011年時点の推定値が約125兆ドルであり、生態系の破壊は、そうした価値の破壊ということになります。

詳しく調べるためのキーワード

●環境経済学
●自然資本
●コモンズの悲劇

出典・リンク

●世界のGDP超える「年間125兆ドル」──生態経済学の第一人者に聞く「生態系」の価値
●R. Costanza ほか(2014)Changes in the global value of ecosystem services. Global environmental change, 26: 152-158.

役に立つ生物だけ保護すればよい?

生態系サービスが人間社会にとって必要だとしても、すべての生物を保護する必要はない、と考える人はたくさんいます。たとえば、ゴキブリは絶滅したほうが良いなどです。また、世界ではすでに多くの動植物が人間の手で滅ぼされていますが、何も問題は起きずに社会は豊かになってきたように見えます。
しかし、家の中に出没するゴキブリ(クロゴキブリ、ワモンゴキブリ)は、ゴキブリ全体の中の一部の種類であり、しかも日本では外来種です。ほとんどのゴキブリは森林で朽ち木や動物の死体の分解などを行っており、生態系の維持に大きく貢献しています。その他のさまざまな動植物も、生態系の維持に役立っているかもしれません。
そして、これまで多くの動植物が絶滅してもなんとかなってきましたが、これからも大丈夫とはいえません。地球上の生物の多くは、まだ名前の付けられていない新種であり、生態系の中での役割も不明なので、どれが重要なのかを判断することはできません。そうすると、現状の生態系をなるべく変えずに、今いる生き物の絶滅が起きないようにするのが、生態系サービスの維持に必要なこと、ということになります。

詳しく調べるためのキーワード

●リベット仮説 
●レッドリスト 
●分類学

出典・リンク

●C. Mora ほか (2011) How Many Species Are There on Earth and in the Ocean? PLoS Biol 9(8): e1001127.
●J.J. Wilens (2014) How many species are there on Earth? Progress and problems. PLoS Biol 21(11): e3002388.

SDGsの目標:生態系が重要

SDGs(Sustainable Development Goals)は、2015年9月25日の国連総会で採択された『持続可能な開発のための2030アジェンダに記述された2030年までの具体的指針』であり、17の分野別の目標と169項目の達成基準が設定されています。
地球上の誰一人取り残さない(leave no one behind)、より良い世界を目指すものであり、さまざまな社会的課題(貧困、飢餓、保健、など)への取り組みが目標に掲げられています。
そうした目標はすべて重要なのですが、「生態系Biosphere」が維持されていなければ、その上に「社会Society」は成り立たず、平等な社会がなければ、その上の健全な「経済Economy」もなく、目標達成(目標17 パートナーシップで目標を達成しよう)はできません。そのことをヨハン・ロックストローム(Johan Rockström)博士とパヴァン・スクデフ(Pavan Sukhdev)博士が示したのがSDGsウェディングケーキモデルです。

詳しく調べるためのキーワード

●サステナビリティ 
●成長の限界 
●文明崩壊

出典・リンク

●The SDGs wedding cake
●SDGsって何?(岐阜県)

生物多様性の回復へ

これまで世界では生物多様性が失われる一方でした。しかし、このままでは持続可能な社会は実現できず、生態系サービスは減少し、資源をめぐる争いや、それに伴う貧困、不平等などが広がる可能性があります。
そのため、2022年12月に生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」では、2030年グローバルターゲットの1つとして、2030年までに、陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全し、自然を回復させる(ネイチャーポジティブ)ことが目標に掲げられました。
この目標が「30by30(サーティ・バイ・サーティ)目標」とされており、ネイチャーポジティブ(Nature Positive)とは「自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させる」こととされています。
日本においても、2023年3月に新たな生物多様性国家戦略「生物多様性国家戦略2023-2030」が閣議決定され、2030年までのネイチャーポジティブ実現に向けた目標の一つとして30by30目標が位置付けられています。

詳しく調べるためのキーワード

●地域生物多様性増進法 
●生物多様性国家戦略 
●自然共生サイト

出典・リンク

●30by30 (環境省)
●ネイチャーポジティブ ポータル(環境省)

自然を回復させるために

自然を回復させるためには何をすればよいのでしょうか? まず大切なのは、生物がすむ場の再生です。海外では古くなったダムの破壊と撤去や、干拓地の湿地化、海と川のあいだの汽水域の再生などが行われる事例も増えてきました。
今後、身近なところでもそうした再生事業が行われるようにするためには、多くの人が生物多様性や生態系サービスの重要性を理解し、市民や行政がネイチャーポジティブにつながることをしていく必要があります。
しかし、これまで「環境のため」として魚などの放流が行われてきたことがありました。こうした行為は、実は生物多様性を減らすことが明らかになっています。もちろんすべての放流が悪いわけではなく、絶滅危惧種の生息環境を再生した上で、動物園や水族館で保護されてきた種を放すなどの事例は問題ないでしょう。
しかし、川にたくさんの魚を放せば良い環境になるわけではなく、むしろ放流した種類も、それ以外の種類も減ってしまうことがあります。ホタルの餌としてカワニナを撒くのも、外来種となることが多い事例です。
皆さんも、どうすれば自然を回復させることができるのか、さまざまな事例を学び、考えてみてください。

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●魚類の放流ガイドライン 
●国内外来種 
●遺伝的攪乱

出典・リンク

●放流しても魚は増えない~放流は河川の魚類群集に長期的な悪影響をもたらすことを解明~(北海道大学・北海道立総合研究機構プレスリリース)
●じつはサケやほかの魚を「放流」しても、数が増えないどころか「減ることさえある」という「衝撃的な事実」
●ぎふの淡水生物を守る